漢詩
今年もそろそろ終わります。そこでこの詩を一首。 玉関寄長安李主簿 玉関にて長安の李主簿に寄す 岑参東去長安万里余 東のかた長安を去ること 万里余故人那惜一行書 故人 那(なん)ぞ惜まん 一行の書玉関西望腸堪断 玉関 西望すれば 腸 断つに堪えん況復明朝…
菊花 元稹秋叢繞舎似陶家 秋叢 舎を繞(めぐ)りて 陶家に似たり遍繞籬辺日漸斜 遍く籬辺を繞りて 日 漸(やうや)く斜めなり不是花中偏愛菊 是れ 花中 偏(ひとへ)に菊を愛するにはあらず此花開尽更無花 此の花 開き尽くせば更に花無ければなり 秋の草が我が家に…
山行 杜牧遠上寒山石径斜 遠く寒山に上れば石径斜めなり白雲生処有人家 白雲 生ずる処 人家有り停車坐愛楓林晩 車を停めて坐(そぞろ)に愛す 楓林の晩霜葉紅於二月花 霜葉は二月の花よりも紅なり 遠くもの寂しい山を登っていくと、石の小径が斜めに続いている…
今夜は七夕です。よってその詩を一首。 七夕 李賀 別浦今朝暗 別浦 今朝 暗く 羅帷午夜愁 羅帷 午夜 愁ふ 鵲辞穿線月 鵲は辞す 穿線の月 蛍入曝衣楼 蛍は入る 曝衣の楼 天上分金鏡 天上 金鏡を分かち 人間望玉鉤 人間(じんかん) 玉鉤を望む 銭塘蘇小小 銭塘…
帰雁 銭起瀟湘何事等閑回 瀟湘 何事ぞ 等閑に回(かへ)る水碧沙明両岸苔 水 碧く 沙(すな) 明らかにして 両岸 苔むす二十五絃弾夜月 二十五絃 夜月に弾じ不勝清怨却飛来 清怨に勝へず 却飛して来たる 雁はどうしてこの瀟湘の地を気にも留めず北へと帰っていく…
将進酒 李白 君不見黄河之水天上来 君 見ずや 黄河の水 天上より来たるを奔流到海不復回 奔流 海に到りて 復た回(かへ)らず君不見高堂明鏡悲白髪 君 見ずや 高堂の明鏡に白髪を悲しむを朝如青糸暮成雪 朝には青糸の如きも 暮には雪と成る人生得意須尽歓 人生…
泊秦淮 秦淮(しんわい)に泊す 杜牧煙籠寒水月籠沙 煙は寒水を籠(こ)め 月は沙(すな)を籠む夜泊秦淮近酒家 夜 秦淮に泊し 酒家に近し商女不知亡国恨 商女は知らず 亡国の恨み隔江猶唱後庭花 江を隔てて猶ほ唱す 後庭花 もやは寒々とした川の水を包み込み、月…
易水送別 駱賓王 此地別燕丹 此の地 燕丹に別れ壮士髪衝冠 壮士 髪 冠を衝(つ)く昔時人已没 昔時 人 已に没し今日水猶寒 今日 水 猶ほ寒し この地はかつて荊軻が燕の太子丹と別れたところだ。当時の壮士たちは、髪が冠を突き上げるほど悲憤慷慨していた。そ…
歩出夏門行〔観滄海〕 曹操 東臨碣石 東のかた碣石(けっせき)に臨み以観滄海 以て滄海を観る水何澹澹 水は何ぞ澹澹(たんたん)たる山島竦峙 山島 竦峙(しょうじ)たり樹木叢生 樹木 叢(むら)がり生じ百草豊茂 百草 豊かに茂る秋風蕭瑟 秋風 蕭瑟として洪波湧起…
隋宮の春 杜牧龍舟東下事成空 龍舟 東に下るも 事 空(くう)と成る蔓草萋萋満故宮 蔓草(まんそう) 萋萋(せいせい)として 故宮に満つ亡国亡家為顔色 国を亡(ほろ)ぼし家を亡ぼすは 顔色が為なり露桃猶自恨春風 露桃 猶ほ自ら春風を恨む 煬帝は龍舟を浮かべて東…
代悲白頭翁 白頭を悲しむ翁に代す 劉希夷 洛陽城東桃李花 洛陽の城東 桃李の花飛来飛去落誰家 飛び来たり飛び去りて 誰(た)が家にか落つ洛陽女児好顏色 洛陽の女児 顔色を好み坐見落花長歎息 坐(そぞ)ろに落花を見て 長く歎息す今年花落顏色改 今年 花落ちて…
独酌 白居易窓外正風雪 窓外 正に風雪擁炉開酒缸 炉を擁して 酒缸を開く何如釣船雨 何如(いかん)ぞ 釣船の雨篷底睡秋江 篷底 秋江に睡るに 窓の外はいまや吹雪。その音を聞きながら炉端で酒がめのふたを開く。この楽しさは、秋の川辺で雨音を聞きながら、釣…
江南春 杜牧千里鶯啼緑映紅 千里 鶯 啼きて 緑 紅に映ず水村山郭酒旗風 水村 山郭 酒旗の風南朝四百八十寺 南朝 四百八十寺(しひゃくはっしんじ)多少楼台煙雨中 多少の楼台 煙雨の中(うち) 千里彼方まで鶯が鳴きしきり、緑の葉が紅の花に映えわたる。水辺の…
江雪 柳宗元千山鳥飛絶 千山 鳥飛ぶこと絶え万逕人蹤滅 万逕 人蹤滅す孤舟蓑笠翁 孤舟 蓑笠の翁独釣寒江雪 独り釣る 寒江の雪 連なる山々には鳥の飛ぶ姿も絶え、あらゆる小径には人の足跡も消えた。一艘の小舟に蓑笠をつけた翁が乗り、寒々とした雪の降る江…
茅屋為秋風所破歌 杜甫 茅屋 秋風の破る所と為る歌 八月秋高風怒号 八月 秋高くして 風 怒号し巻我屋上三重茅 我が屋上の三重の茅を巻く茅飛度江灑江郊 茅は飛びて江を度(わた)り 江 郊に灑(そそ)ぎ高者挂罥長林梢 高き者は長林の梢(こずえ)に挂罥(くゎいけ…
秋風辞 漢武帝 秋風起兮白雲飛 秋風 起こりて 白雲 飛び草木黄落兮雁南帰 草木 黄落して 雁 南に帰る蘭有秀兮菊有芳 蘭に秀でたる有り 菊に芳しき有り懐佳人兮不能忘 佳人を懐(おも)ひて忘るる能はず泛楼舡兮済汾河 楼舡を泛(うか)べて 汾河(ふんが)を済(わ…
送別 王維下馬飲君酒 馬を下り 君に酒を飲ましむ問君何所之 君に問ふ 何の之(ゆ)く所ぞ君言不得意 君は言ふ 意を得ず帰臥南山陲 南山の陲(ほとり)に帰臥(きが)せんと但去莫復問 但だ去れ 復た問ふこと莫し白雲無尽時 白雲 尽くる時無からん 馬を下りて君に一…
夏昼偶作 柳宗元南州溽暑酔如酒 南州 の溽暑(じょくしょ) 酔ひて酒の如し隠几熟眠開北牖 几(き)に隠(よ)りて熟眠 北牖(ほくゆう)を開く日午独覚無余声 日午 独り覚めて 余声無し山童隔竹敲茶臼 山童 竹を隔てて 茶臼(ちゃきゅう)を敲(たた)く 南国のあまりの…
香山避暑 白居易 六月灘声如猛雨 六月 灘声(たんせい) 猛雨の如し 香山楼北暢師房 香山の楼北 暢師(ちょうし)の房 夜深起憑闌干立 夜深くして 起ちて闌干(らんかん)に憑りて立てば 満耳潺湲満面涼 耳に満つる潺湲(せんかん) 面に満つる涼 夏六月、岩にぶつか…
「梅雨」というのはもともと梅の実が熟する頃に降る雨ということで、中国でもあります。その梅雨を詠った杜甫の詩を一首。 梅雨 杜甫 南京犀浦道 南京 犀浦(さいほ)の道 四月熟黄梅 四月 黄梅 熟す 湛湛長江去 湛湛として 長江 去り 冥冥細雨来 冥冥として …
把酒問月 酒を把(と)りて月に問ふ 李白青天有月来幾時 青天 月有りて来(このか)た幾時ぞ我今停杯一問之 我 今 杯を停めて一たび之に問ふ人攀明月不可得 人 明月を攀(よ)づるも得(う)べからず月行却与人相随 月行 却(かえ)って人と相ひ随ふ皎如飛鏡臨丹闕 皎…
月下独酌 李白花間一壷酒 花間 一壺の酒独酌無相親 独り酌みて相ひ親しむ無し挙杯邀明月 杯を挙げて明月を邀(むか)へ対影成三人 影に対して三人と成る月既不解飲 月は既に飲むを解せず影徒随我身 影は徒らに我が身に随ふ暫伴月将影 暫く月と影とを伴にし行楽…
春風 白居易春風先発苑中梅 春風 先に発(ひら)く 苑中の梅桜杏桃梨次第開 桜 杏 桃 梨 次第に開く薺花楡莢深村裏 薺花(せいか) 楡莢(ゆきょう) 深村の裏(うち)亦道春風為我来 亦(ま)た道(い)ふ 春風 我が為に来たると 春風はまず御苑の中の梅を咲かせ、その…
三月になり春めいてきました。 そこでこのような詩を。 贈范曄 范曄(はんよう)に贈る 陸凱(りくがい)折花逢駅使 花を折りて駅使に逢ふ寄与隴頭人 隴頭(ろうとう)の人に寄与せん江南無所有 江南に有る所無し聊贈一枝春 聊(いささ)か一枝(いっし)の春を贈らん …
玉階怨 李白玉階生白露 玉階に白露生じ夜久侵羅襪 夜 久しくして 羅襪(らべつ)を侵す却下水精簾 却(かえ)つて下ろす 水精の簾(すだれ)玲瓏望秋月 玲瓏(れいろう) 秋月を望む 宮殿の玉の階(きざはし)に白露が降り、夜が更けて薄絹の靴下の中まで冷たさが染み…
玉階怨 謝朓(しゃちょう)夕殿下珠簾 夕殿(せきでん) 珠簾を下ろし流蛍飛復息 流蛍 飛びて復た息ふ長夜縫羅衣 長夜 羅衣を縫ひ思君此何極 君を思ふこと此(ここ)に何ぞ極まらん 夕方の宮殿では珠のすだれが下ろされ、流れていく蛍が飛んではまた休んでいる。長…
相送 何遜(かそん)客心已百念 客心 已(すで)に百念孤遊重千里 孤遊 千里を重ぬ江暗雨欲来 江 暗くして 雨 来たらんと欲し浪白風初起 浪 白くして 風 初めて起こる 異郷にある身の心にはさまざまな思いが湧き起こってくる。私はただ一人これからまた千里の旅…
芙蓉楼送辛漸 芙蓉楼にて辛漸(しんぜん)を送る 王昌齢寒雨連江夜入呉 寒雨 江に連なりて 夜 呉に入る平明送客楚山孤 平明 客を送れば 楚山 孤なり洛陽親友如相問 洛陽の親友 如(も)し相ひ問はば一片氷心在玉壺 一片の氷心 玉壺(ぎょくこ)に在り 冷たい雨が長…
黄鶴楼送孟浩然之広陵 黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ゆ)くを送る 李白故人西辞黄鶴楼 故人 西のかた黄鶴楼を辞し煙花三月下揚州 煙花 三月 揚州に下る孤帆遠影碧空尽 孤帆(こはん)の遠影 碧空に尽き唯見長江天際流 唯だ見る 長江の天際に流るるを 親しい友は…
登鸛鵲楼 鸛鵲楼(かんじゃくろう)に登る 王之渙(おうしかん) 白日依山尽 白日 山に依(よ)りて尽き黄河入海流 黄河 海に入りて流る 欲窮千里目 千里の目を窮めんと欲し更上一層楼 更に上る 一層の楼 白日は西の山際にかかって隠れようとしている。黄河は遥か…