江雪―柳宗元

  江雪  柳宗元
山鳥飛絶  千山 鳥飛ぶこと絶え
万逕人蹤滅  万逕 人蹤滅す
孤舟蓑笠翁  孤舟 蓑笠の翁
独釣寒江雪  独り釣る 寒江の雪

 連なる山々には鳥の飛ぶ姿も絶え、あらゆる小径には人の足跡も消えた。一艘の小舟に蓑笠をつけた翁が乗り、寒々とした雪の降る江の中で、独り釣り糸を垂れている。

 
 雪の降りしきる中、誰もいない江で独り釣り糸を垂れる翁。まさに一幅の山水画が目に浮かぶようです。古来、釣り人は隠者のイメージをともなうもので、この詩においても、俗世間と交わりを絶った超俗の世界を描いたものとして解されることが多いようです。

 一方で、この「蓑笠の翁」を不遇な作者自身の姿ととり、絶望的な現実に対する孤独と寂寥を表したものとする見方もあります。

 この詩の制作時期については定かではありません。一般には、政治改革に失敗し、永州に左遷された時期のものとされます。永州は今の湖南省にあり、めったに雪の降らない地ですが、実は柳宗元は永州に来て二年目、元和二年(八〇七)に南方では珍しい大雪を体験しています。もしその時期であるとすれば、永州に来てまだ憂いと孤独にさいなまれていた頃、南方ではめったに見られない雪景色に感じてこの詩を作ったのかもしれません。

 しかし結局はこの詩が作られた背景は不明です。それゆえにこの翁の心境はどのようなものであったのか、そのとらえ方はおそらく詩を読む人によってさまざまに異なるものとなるでしょう。