山行
遠くもの寂しい山を登っていくと、石の小径が斜めに続いている。白雲が生ずるような奥深いところに人家があった。夕暮れに車を停めて何とはなしに楓の林を愛おしく眺めてみると、霜のおりた葉は二月の花よりも紅く染まっている。
※[寒山]もの寂しい山。人気の無い山。 [白雲生処]古来、雲は山の奥から湧き出るものと考えられていた。 [坐]そぞろに。何とはなしに。 [二月花]春の盛りに咲く花。桃の花など。
杜牧を代表する詩の一つです。
白雲とは古来、山の奥深いところから生ずるとされており、そのような場所に家を構えているのはおそらく隠者なのでしょう。すなわちそこは俗世から離れた別天地であると言えます。そこでふと夕日に照らされた楓林の美しさに気づき、たたずみ眺める杜牧の姿が浮かんできます。
この詩は、「寒山」「石径」「白雲」といった寒色の風景から始まりますが、その中にあって最後に「霜葉は二月の花よりも紅なり」と結ぶことで、紅い楓の美しさが一層際立ちます。まさに杜牧の描写巧みさがうかがえる作品と言えるでしょう。