田園楽
すっかり暖かくなってきました。
ということで春の詩を一首。
田園楽 王維
桃紅復含宿雨 桃 紅(くれない)にして 復た宿雨を含み
柳緑更帯朝煙 柳 緑にして 更に朝煙を帯ぶ
花落家童未掃 花 落ちて 家童 未だ掃(はら)はず
鶯啼山客猶眠 鶯 啼きて 山客 猶ほ眠る
桃の花は紅く、昨夜からの雨を含んでいっそう鮮やか。柳は緑色で、朝の霞を帯びてさらに美しい。花が散っても召使いはまだ掃除もしない。ウグイスが鳴いているのに山中の隠者はまだ眠っている。
※[宿雨]昨夜に降った雨。 [朝煙]朝の霞。もや。 [山客]山中の隠者。
作者王維は唐の宮廷に仕えていた官人であり、決して隠者ではありませんが、宮仕えのあいまにしばしば都の郊外の山荘で、自適の生活を楽しんでいました。これはそういった郊外の田園風景を詠ったものです。
「桃」「柳」「花」「鶯」など、春の景物を詩の中に取り込んで描いたその見事な風景は、まさに「詩中に画有り」と称されるにふさわしい作品でしょう。
最後の句、鶯の鳴き声を聞きながらなお眠っている山客、これは王維自身の姿でしょうか。眠りを誘う春ののどかさは、かの有名な孟浩然の「春暁」を意識しているのかも知れません。
春暁 孟浩然
春眠不覚暁 春眠 暁を覚えず
処処聞啼鳥 処処 啼鳥を聞く
夜来風雨声 夜来 風雨の声
花落知多少 花落つること 知る多少
春の眠りは心地よく、朝が来たのにも気づかないほど。あちこちから鳥の鳴き声が聞こえてくる。昨夜は風雨の音が激しかったが、今朝はどれくらい花が散ったことだろう。