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南史演義 巻1-5

南史演義

 ある時、劉裕がたまたま孔靖(こうせい)の家の前を通った時、孔靖はちょうど昼寝をしていたが、たちまち金の鎧をまとった神人が現れて言った。「起きよ!起きよ!天子が門の前におられるぞ。」孔靖は驚いて起き上がってすぐに外を見ると、他に誰もおらず、ただ劉裕が門の外を歩いているだけであった。そこで招き入れて酒を用意し、非常に丁寧に歓待した。劉裕はその礼遇があまりにも度を超えているのをいぶかしみ、問うた。「あなたはどうしてこのようなことをされるのでしょうか。」孔靖はその手を取って言った。「君はきっと大変な貴人となるだろう。願わくはこの身と家とを託したいものだ。どうか後日、今日の言葉を忘れないでほしい。」劉裕は言った。「あなたの言うとおりになるかどうかは分かりませんが、決して忘れませんよ。」二人は笑いながら別れた。

 呂ばあさんは、町で酒屋を開いていたが、以前から劉裕に怪異なことが多く起こると聞き、これはただ者ではないと思っていた。そして劉裕が酒屋で酒を飲むときには、いつもただにしていた。ある日、劉裕がやってきて酒を求めると、呂ばあさんは言った。「酒は中にあるから、勝手に入って飲んでおくれ。」劉裕は中に入り、酒甕のそばで飲んでいたが、思わず飲み過ぎて地に倒れ伏してしまった。

 たまたま司徒の王謐(おうひつ)の門人が、丹徒県に使いにやって来ており、京口里を通った時、歩き疲れたためその酒屋で酒を飲もうとした。呂ばあさんは言った。「中に入って座っといておくれ。すぐに酒を持っていくから。」その人は中に入ったが、すぐに驚いて飛び出してきて、ばあさんに言った。「おまえのところにはどうしてこんな怪物がいるんだ?」呂ばあさんは言った。「劉さんが中で酒を飲んでいるだけで、そんな変なものはいないはずじゃが。」その人は言った。「実際にいるんだ。五色のまだら模様が輝く龍のようなものが、地面にとぐろを巻いている。劉さんなどいないぞ。」呂ばあさんが入っていくと、劉裕はすでに目を覚ましており、立ち上がって言った。「飲み過ぎて酔って倒れただけだ。何でもない。」呂ばあさんは笑って出ていった。

 その人は劉裕の姓名を尋ね、酒を数杯飲んで去っていった。心中ひそかにこれを怪しみ、帰って王謐に告げた。すると王謐は言った。「私はその人を前から知っている。私がかつて京口竹林寺を訪れた際、ちょうど門から走り出てくる者があった。その容貌は奇偉で、とても凡人のそれではなかった。そばにいた人に尋ねたところ、それが劉寄奴であった。寺に入ると僧たちが騒然としており、予はその理由を問うた。すると僧は言った。『先ほどまで劉寄奴が酔って講堂の禪榻(座禅に用いる腰掛け)に寝ていたのだが、ぼんやりと五色の龍の模様が光り輝いてその体を覆っていたのじゃ。皆でそれを見ていたところ、劉が目覚めるとその光は消えてしまいおった。ゆえに皆それを異なことだと思っていたのじゃ。』予はその僧の言葉を妄言だと疑っておったが、おまえの見たところによると、僧の言葉は嘘ではなかったようだ。そやつはいずれ龍のごとく天に飛翔するであろう。池の中に潜んで終わるものではあるまい。」そこでその門人に他言しないよう戒め、そしてひそかに劉裕と婚姻を結ぼうと考えた。

 ある日、王謐が仕事で丹徒県に赴くことになり、道中で劉裕を訪ねることにした。数人の従者を連れて京口里に行き、たまたま刁逵(ちょうき)の家の前を通り過ぎた。すると大勢の者たちが一人の男を木に縛り上げており、刁逵がその側で大声で怒鳴りながらその男を打っていた。王謐がそれを見ると、なんと劉寄奴であった。大いに驚き、その者たちを叱してとどめ、刁逵に言った。「おまえはどうして劉寄奴にこんなことをしているのか。」

 刁逵「寄奴は毎日ばくちをしにやって来ていたが、それで俺に三万銭の借金ができたんだ。しかし何度訪ねていっても返してはくれん。そこで捕らえて笞打っているんだ。」王謐「三万銭など小さなことだ。私が寄奴に代わっておまえに返してやる。すぐに縄をほどいてくれ。」刁逵はそこで寄奴をほどいた。

 王謐は劉裕の手を取って言った。「私はちょうど君を訪ねようとしたのだが、まさかここで君と会おうとは。」劉裕はそこで王謐を家に迎え、助けてくれたことを感謝した。王謐は言った。「これは感謝されるほどのことではない。しかし君は当代の豪傑であるのに、どうして功名を奮おうともせず、困窮に甘んじて、つまらぬ人間から侮りを受けているのか?」

 劉裕「私は以前から天下に名をあげようと志していました。しかし残念ながらこの身を投ずるつてがないのです。」王謐「前将軍の劉牢之(りゅうろうし)は、江北に軍を駐屯させ、北府と号して、広く才能・武勇ある士を招いている。君がそこに投ずれば、必ず重用されるだろう。そうすれば功業を立てるのに何の患いもあるまい。私が君のために紹介状を書いてあげよう。どうかね?」劉裕は拝謝した。王謐はすぐに一封の書状をしたため、劉裕に与えた。そして三万銭を刁逵に返し、劉裕にはさらに厚く贈り物を与えて去っていった。劉裕はこれより刁逵を深く怨み、王謐の恩徳に厚く感謝したのである。

 ただ劉裕が北府に行ってその軍に投じても、果たして劉牢之が重く用いるかどうかは分からない。続きは次回の講釈を待て。

南史演義 巻1 了