菊花

 菊花   元稹
秋叢繞舎似陶家  秋叢 舎を繞(めぐ)りて 陶家に似たり
遍繞籬辺日漸斜  遍く籬辺を繞りて 日 漸(やうや)く斜めなり
不是花中偏愛菊  是れ 花中 偏(ひとへ)に菊を愛するにはあらず
此花開尽更無花  此の花 開き尽くせば更に花無ければなり

 秋の草が我が家にまとわりついて、まるで陶淵明の家のよう。垣根のあたりをあまねくめぐって、日は少しずつ傾いていく。花の中でただ菊だけを愛しているというわけではない。しかしこの花が開き散り尽くしてしまうともう花が無くなってしまうから(愛さずにはいられないのだ)。


 今年の秋も終わりということで、晩秋を象徴する菊の花を詠った詩です。
 秋の草がまとわりつく家を指して「陶家に似たり」と言いますが、やはり菊と言えば陶淵明を思い起こすためす。彼の「飲酒」詩にある「菊を采る東籬の下 悠然として南山を見る」という句は唐代にも広く人口に膾炙していたのでしょう。

 また同じく菊を詠った詩をもう一首。

 菊花   白居易
一夜新霜著瓦軽  一夜 新霜 瓦に著(つ)きて軽し
芭蕉新折敗荷傾  芭蕉 新たに折れ 敗荷 傾く
耐寒唯有東籬菊  寒に耐うるは唯だ東籬の菊有るのみ
金粟花開暁更清  金粟 花 開きて 暁に更に清し


 ある夜、初霜が降りて瓦をうっすらと覆った。芭蕉は折れてしまい、破れた蓮の葉も傾いた。この寒さに耐えうるのは東の垣根の菊だけ。金の粒のような花が開き、朝の光を受けて一層清らかだ。


※[敗荷]破れた蓮。 [金粟]金のあわ。金の粒。

 

 この詩でも「東籬の菊」と言い、陶淵明をイメージしています。

 元稹は、この花が散ってしまうと他には花が無いと言い、白居易もやはり、他の花は全て散ってしまい、寒さに耐える花としては菊があるだけだと言っています。

 内容的にも共通点の多いこれらの詩ですが、元稹と白居易は親友ですので、あるいは酒宴のなどの場にあって、同じ詩題で作ったものかもしれません。

 晩秋に鮮やかに咲く菊の花は、一年の最後を飾るのものとして、特に中国の詩人には愛されていたのでしょう。