送別―王維

 

 送別  王維
下馬飲君酒  馬を下り 君に酒を飲ましむ
問君何所之  君に問ふ 何の之(ゆ)く所ぞ
君言不得意  君は言ふ 意を得ず
帰臥南山陲  南山の陲(ほとり)に帰臥(きが)せんと
但去莫復問  但だ去れ 復た問ふこと莫し
白雲無尽時  白雲 尽くる時無からん


 馬を下りて君に一杯の酒を勧める。そして君に問う。「どこへ行くのか。」君は言う。「今の世の中どうも思うようにならぬから、南山のほとりに帰って寝ていようと思う。」「ならば行きたまえ、もう何も尋ねまい。君が行くところは白雲が尽きることはないだろう。」


※[下馬飲君酒]途中まで見送りに来て、別れに際して酒を酌み交わしている。 [不得意]世の中が思うようにならない。しばしば良い官職に就けないことを言う。 [帰臥]隠居する意。 

 

 王維の有名な送別詩です。

 意を得ることができず、山中へと向かう友人を見送るものですが、果たして本当に実在の友人を見送ったのでしょうか。あるいは送別の形をとった自問自答の作という説もあります。

 そして印象的なのは最後の句「白雲 尽くる時無からん」でしょう。古来、雲は山中から生ずるとされ、山の奥深くを意味するものでもあります。また王維はしばしば白雲を高尚さ、隠遁の象徴として用いています。

 すなわち最後の句は隠遁のため山中へと向かう相手(あるいは自分自身)の高潔さをこのように詠ったものと思われます。