一枝の春

三月になり春めいてきました。

そこでこのような詩を。

 贈范曄  范曄(はんよう)に贈る
              陸凱(りくがい)
折花逢駅使   花を折りて駅使に逢ふ
寄与隴頭人   隴頭(ろうとう)の人に寄与せん
江南無所有   江南に有る所無し
聊贈一枝春   聊(いささ)か一枝(いっし)の春を贈らん
     
 君のもとへ行く使者に逢い、花を折ってあずけた。隴頭の人に渡してほしいと。ここ江南の地には何もないが、とりあえず一枝の春を贈りたい。

※[范曄]398~445。字は蔚宗。南朝・宋の文人、歴史家。『後漢書』の著者として知られる。 [駅使]駅馬を使う公的な使者。 [隴頭]隴山のあたり。もとは西域の地名であるが、ここでは范曄のいる長安を指す。 


 作者は南朝・宋の陸凱という人物ですが、詳細については全く不明で、この詩だけで名が残っている人です。北方の長安にいる友人の范曄のもとに、何か贈り物をしたいが、このあたりには何もない。そこで梅の花を手折って、この詩とともに贈ったとされます。梅の花を指して「一枝の春」とは、なかなか洒落た表現だと思います。

 梅の花は春に先駆けて咲く花として知られます。春まだき北方の地にいる友人に対して、一足先にこの地に咲いた梅の花を、「一枝の春」として贈る陸凱の思いやりが感じられるでしょう。