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蜀相

 蜀相  杜甫

丞相祠堂何処尋  丞相の祠堂 何れの処にか尋ねん

錦官城外柏森森  錦官(きんかん) 城外  柏 森森たり

映階碧草自春色  階に映ずる碧草は 自(おのずか)ら春色

隔葉黄鸝空好音  葉を隔つる黄鸝(こうり)は 空しく好音

三顧頻繁天下計  三顧 頻繁なり 天下の計

両朝開済老臣心  両朝 開済す 老臣の心

出師未捷身先死  出師 未だ捷(か)たずして 身 先づ死し

長使英雄涕満襟  長く英雄をして 涕(なみだ) 襟に満たしむ

 

 蜀の丞相諸葛亮の祠堂はどこに尋ねたらよいか。それは錦官城の外、柏の生い茂るところである。きざはしに映える青草は、春の色そのままに美しく、葉陰のウグイスは、聞く人もいないのに良い声で鳴いている。かつて劉備は足繁く三度も彼のもとを訪れて、天下の計を尋ね、孔明はそれにこたえ、劉備父子二代にわたり老臣としての心を尽くして仕えて苦難を切り開いた。しかし魏を討つ戦をおこして勝てぬままに、その身は先に死んでしまい、長く後世の英雄たちに涙を襟元いっぱいに流させているのだ。

 

※[錦官城]蜀の成都にあった城。 [黄鸝]ウグイス。 [両朝]二代の意。劉備とその子劉禅を指す。 [開済]苦難を切り開き、切り抜ける。 [出師]出陣する。建興五年(二二七)、諸葛亮は蜀の後主劉禅に「出師の表」を奉り、魏を討伐するために出陣した。その後、五回にわたって軍を率いて北伐を繰り返したが、魏の司馬懿に阻まれて勝利を収めることができず、陣中に没した。

 杜甫、字は子美(七一二~七七〇)は、詩聖とも称される中国を代表する詩人ですが、彼は諸葛亮を非常に敬愛していた人物としても知られています。蜀、あるいは諸葛亮を詠った詩を多く残していますが、この「蜀相」はその代表とも言える作品です。

 諸葛亮の祠堂は中国全土にありますが、その中でも最も有名なものが成都にあり、もとは劉備の墓陵だったところに、後に諸葛亮の祠堂を側らに造営し、さらに子の劉禅や他の家臣も多く祭られるようになりました。ただし劉禅については亡国の君主ということで、南宋の頃に廃祀されたようです。

 

 この詩は、「三顧の礼」「天下三分の計」「出師表」など今もよく知られる諸葛亮にまつわるさまざまなエピソードを取り入れていますが、とりわけ最後の二句からは、志半ばにして倒れた彼に対する深い哀惜の念がうかがえるでしょう。

 

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