夏晩

 8月最後の日です。

 朝晩は幾分か涼しくなり、夏の終わりを感じさせます。そこで晩夏の詩を一首。

 

 夏晩   薛道衡

流火稍西傾  流火 稍(や)や西に傾き

夕影遍曽城  夕影(せきえい) 曽城に遍(あまね)

高天澄遠色  高天 遠色澄み

秋気入蝉声  秋気 蝉声(せんせい)に入る

 

 夏の火星(蠍座のアンタレス)がやや西に傾く頃となった。夕日の残照が西の果て崑崙山(こんろんざん)までも照らしている。高い空は遥か遠くまで澄みわたり、秋の気配は蝉の声にまでもしみ入っている。

 

 作者薛道衡(せつどうこう)の詩人です。時の皇帝煬帝(ようだい)は、自ら優れた詩人でもありましたが、彼の才能に嫉妬して殺したとも言われています。

 

 「流火」とは夏を代表する星で、今で言う蠍座のアンタレスを指します。それが西に傾くということで夏の終わりという季節を表します。「曽城」とは西の果てにあったとされる伝説の山崑崙山を指しますが、そこまであまねく夕陽が照らすと詠うことで、天の広大さを感じさせています。

 夏の終わりの夕暮れに、澄みきった空、蝉の鳴き声などから秋の気配をいち早く感じ取っており、詩人の感性がよく表れていると言えるでしょう。