元二の安西に使ひするを送る

  送元二使安西  元二の安西に使ひするを送る  王維

渭城朝雨浥軽塵  渭城(いじょう)の朝雨 軽塵を浥(うるお)

客舎青青柳色新  客舎青青 柳色 新たなり

勧君更尽一杯酒  君に勧む 更に尽くせ 一杯の酒

西出陽関無故人  西のかた陽関を出づれば故人無からん

 

 渭城の朝の雨は細かな塵をしっとりとぬらし、宿の柳は鮮やかな青々とした色合いとなった。さあ君、もう一杯酒を飲み干してくれ。西のかなた陽関を出て行けばそこにはもう友人もいないのだから。

 

 

 これは王維が旅立つ友人を見送った送別詩です。

 「渭城」とは、すなわち長安の西北にあった咸陽(かんよう)という町で、唐代には西に向かって旅立つ人をここで見送る習わしがありました。「陽関」とは、甘肅省敦煌の西南にあった関所を言います。当時は、この陽関がまさに西域との国境であると認識されていたようです。実際には陽関をはるかに越えて、今の新疆ウイグル自治区ウルムチクチャなども唐帝国の領域ではあったのですが、中原に住む詩人たちにとってそれらはまさに天の果てにある完全な異国でした。

 当時の旅は、今と異なり非常に危険なものであり、ましてやそのような辺地に行く友人とは、あるいは二度と会うことがないかもしれません。

 そういった友人との別れを惜しむ王維の心情が、ひしひしと伝わってくる詩だと思います。