勧酒

 勧酒  酒を勧む

勧君金屈巵  君に勧む 金屈巵(きんくつし)

満酌不須辞  満酌(まんしゃく) 辞するを須(もち)ひず

花発多風雨  花発(ひら)くや 風雨多し

人生足別離  人生 別離足(た)

 

 さあ君にこの黄金の杯を勧めよう。なみなみとついだ酒を、辞退などしてくれるな。花が開くと風雨も多くなり、人生にも別れがつきものなのだ。

 

 作者于武陵(うぶりょう)は唐代の詩人ですが、それほど有名ではなく、この詩によって名が残った人と言っても良いでしょう。

 花が風雨によって散らされるように、人生にもやむを得ず離ればなれになってしまうことが多いのだと詠っています。いつ親しい人と別れることになるとも分からないので、一緒にいる今をこそ楽しもうと言うのです。短い人生、今この時をこそ大切にしようという作者の思いが伝わってくるでしょう。

 

 またこの詩は井伏鱒二の名訳でも知られています。

コノサカヅキヲ受ケテクレ

ドウゾナミナミツガシテオクレ

ハナニアラシノタトエモアルゾ

「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 

「人生 別離足る」を「サヨナラダケガ人生ダ」と訳せるそのセンスには全く脱帽ですね。