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山中問答

 山中問答   李白

問余何意棲碧山  余に問ふ 何の意ぞ 碧山(へきざん)に棲むと

笑而不答心自閑  笑ひて答へず 心 自(おのづか)ら閑なり

桃花流水窅然去  桃花流水 窅然(ようぜん)として去る

別有天地非人間  別に天地の人間(じんかん)に非ざる有り

 

 どのようなつもりでこの緑深い山奥に住んでいるのかと私に尋ねる人がいるが、私は笑って答えない。心はおのずと閑(しず)かでのびやかだ。桃の花が流れる水に乗って遥か遠く去っていく。ここに人間の世界ではない別天地があるのだ。

 

 俗世から離れた山中での趣を詠っています。この中で桃の花が川の流れに乗って去っていくというのは、人里から隔絶された世界―すなわち桃源郷をイメージさせます。それは中国に伝わる以下のような話に基づきます。

 

 

 その昔、とある漁師が魚を捕りつつ川をさかのぼって行くと、突然、桃の林に出ます。桃の花ばかり一面に咲き誇り、両岸に延々と続いており、桃以外の木はありません。それを不思議に思った漁師は、その林の果てを突きとめようとさらに川をさかのぼって行きます。すると水源のところまで来て、小さな穴を見つけました。そこで舟を捨ててその中に入っていくと、やがて広々とした地にたどりつきます。そこは数百年前に戦乱を避けてやって来た人々が、外の世界と隔離されて住む地でした。そこで漁師は非常に歓待され、数日の間留まります。帰り際に漁師は村人から、この地のことは外の人には言わないで欲しいと頼まれます。ところが元の世界に帰った漁師は、太守に報告し、再びそこに行こうとしました。しかし結局二度とたどりつくことはできませんでした。

 この「桃花源」、あるいは「桃源郷」という言葉は、そもそもの意味は、上記にあるように桃の花の源をたどっていくとたどり着いた郷ということで、山奥深くにある世間から隔離された地、いわば隠れ里のようなものを指します。

 李白も「天地の人間に非ざる有り」と言うように、人間世界から隔絶された地を理想郷として求めていたのでしょう。