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桃園の誓い

 4月に入り、花も盛りの季節となりました。日本では春の花といえば桜ですが、中国では桃のイメージが強いようです。そして桃の花の咲き誇る「桃園」で劉備関羽張飛の3人が義兄弟の契りを結ぶところから、小説『三国志演義』の物語は始まります。(桃園の誓い)

三国志演義』第1回 

 張飛は言った。「おれの家の裏に桃園がある。今はちょうど花が盛りの時だ。明日、その桃園で天地を祭って、我ら三人、兄弟の契りを結び、力を合わせ心を一つにしようではないか。その後で大事について相談しよう。」玄徳、雲長は声をそろえて「それは良い」と言った。翌日、桃園の中に、黒牛、白馬など祭礼に用いるものなどをそろえ、三人は香を焚き、再拝して誓って言った。「劉備関羽張飛の三人は、姓は異なるが、ここで兄弟の契りを結び、心を一つにし、力を合わせ、危難には助け合い、上は国家の恩に報い、下は庶民を安らかにしたい。同年同月同日に生まれることは求めないが、ただ願わくは同年同月同日に死にたい。皇天后土もこの心を照覧あれ。義に背き、恩を忘れることがあれば天より罰せられるであろう。」誓い終わると、玄徳を長兄とし、関羽を次兄とし、張飛を弟とした。

 この「桃園の誓い」は、「同年同月同日に生まれることは求めないが、ただ願わくは同年同月同日に死にたい」という台詞とともに、この三人を密接に結びつけるものとして彼らが死ぬまで、この『三国志演義』という物語の言わば核となっていると言って良いでしょう。

 しかしこの「桃園の誓い」はフィクションです。

 ただ彼らが兄弟のように親しかったということは、正史『三国志』(関羽伝)にも見られます。

先主(劉備)と二人と寝(い)ぬれば則ち床を同じくし、恩は兄弟の若(ごと)し。

 先主と二人とは、寝るときも同じ寝台にやすみ、その恩愛は兄弟のようであった。

 関羽張飛は、旗揚げの時から劉備とずっと行動をともにし、彼を守り、支えてきた豪傑ですが、具体的な関係を示す記述となると、上記の一文くらいです。わずかこれだけの記述から義兄弟という関係、さらには物語の核となる「桃園の誓い」という名場面を作り出すのは、小説『三国志演義』の文学性を示すものと言えるでしょう。