楓橋夜泊
楓橋夜泊 張継(ちょうけい)
月落烏鳴霜満天 月落ち烏(からす)鳴きて 霜 天に満つ
江楓漁火対愁眠 江楓 漁火 愁眠に対す
姑蘇城外寒山寺 姑蘇(こそ)城外 寒山寺
夜半鐘声到客船 夜半の鐘声(しょうせい) 客船に到る
月が落ち烏が鳴き、霜の気は天に満ちわたっている。川岸の楓や漁り火が旅の愁いに眠れぬ目に映る。姑蘇城外の寒山寺で、夜半に鳴る鐘の音が旅の船にまで聞こえてくる。
※[楓橋]蘇州の町の西にある橋の名。 [霜満天]霜の気が天に満ちる。霜は空から降ってくると考えられていた。 [愁眠]愁えて眠れないこと。 [姑蘇城]蘇州の町。
作者張継(?~七七九頃?)は唐の詩人ですが、その名を知る人はほとんどいないでしょう。事績についても詳しいことは分かっていません。ただこの詩は有名で、逆にこの詩によってその名が残ったとも言えます。
「月」「江楓」「漁火」の視覚と、「烏鳴」「鐘声」という聴覚、そして天に満ちる冷たい「霜」の気の触覚といったあらゆる感覚を駆使し、その風景を立体的に構成しています。詩人が目にし、耳で聞き、肌で感じた旅の夜の様子を客観的に描写しつつ、それによって旅の愁いを際だたせています。「旅夜」というのは詩の主な題材の一つですが、まさにその歴代の「旅夜」の詩の中の白眉と言ってよいでしょう。
この詩によって、この楓橋もまた有名となり、現在は蘇州のメジャーな観光地となっています。