三国志雑感

 最初はやはり『三国志』の話から。

 一口に『三国志』といっても、実は大きく二つに分けられます。

 陳寿の編纂した歴史書である『三国志』と、羅貫中の作とされる小説『三国志演義』です。日本で一般に『三国志』という場合、多くは小説『三国志演義』に基づいた作品を指し、歴史書の『三国志』はそれと区別するため『正史三国志』と呼んでいます。一方、中国では『三国志』というと歴史書の『三国志』を指し、小説の場合は『三国志演義』(あるいは『三国演義』)と呼んでいます。

 『三国志』を語る上で、この二つははっきりと区別することが大切です。

 そしてこの『三国志』は、日本でも大人気ですが、そのきっかけは、吉川英治の小説『三国志』、およびそれを基にマンガ化した横山光輝の『三国志』の影響がまず大きいでしょう。

 ただこれらの作品は中国の『三国志演義』をもとにしつつ、作者がそこにオリジナルの創作を加えて作り出したものです。しかし当初は多くの人が、吉川英治の『三国志』(あるいは横山光輝三国志』)は、もともとの『三国志』、すなわち中国の小説『三国志演義』をそのまま翻訳したものだという誤解を抱いていたようです。これらはあくまで「吉川三国志」(または「横山三国志」)と呼ぶべきもので、『三国志演義』とは別の作品です。

 日本の『三国志』ブームの先駆けとなったという点では、これらの作品の功績は非常に大きなものですが、その大ヒットのゆえに、逆に『三国志』と言えば吉川英治、あるいは横山光輝というイメージが定着してしまったのも事実です。

 もっともその後、日本ではさまざまな作家が『三国志』を書くようになり、それぞれオリジナリティのあふれる作品が多く作られるようになりました(陳舜臣柴田錬三郎北方謙三宮城谷昌光など)。

 これらを比較して読んでみても面白いかと思いますが、ただしすべて基本的には長編小説ですので、よほど時間がないと、なかなか全部読み通すのは難しいでしょうね。

 さらには正史『三国志』をもとに曹操を主人公とした異色のマンガ『蒼天航路』、赤壁の戦いを題材とした映画『レッドクリフ』、あるいはシミュレーションゲーム三国志』、格闘ゲーム三国無双』(『真・三国無双)などによって、さらに三国志世界は広がっていき、若い人や、女性、子供にも受け入れられるようになり、日本にますます浸透していったというわけです。