一枝の春

三月になり春めいてきました。 そこでこのような詩を。 贈范曄 范曄(はんよう)に贈る 陸凱(りくがい)折花逢駅使 花を折りて駅使に逢ふ寄与隴頭人 隴頭(ろうとう)の人に寄与せん江南無所有 江南に有る所無し聊贈一枝春 聊(いささ)か一枝(いっし)の春を贈らん …

玉階怨―李白

玉階怨 李白玉階生白露 玉階に白露生じ夜久侵羅襪 夜 久しくして 羅襪(らべつ)を侵す却下水精簾 却(かえ)つて下ろす 水精の簾(すだれ)玲瓏望秋月 玲瓏(れいろう) 秋月を望む 宮殿の玉の階(きざはし)に白露が降り、夜が更けて薄絹の靴下の中まで冷たさが染み…

玉階怨―謝朓

玉階怨 謝朓(しゃちょう)夕殿下珠簾 夕殿(せきでん) 珠簾を下ろし流蛍飛復息 流蛍 飛びて復た息ふ長夜縫羅衣 長夜 羅衣を縫ひ思君此何極 君を思ふこと此(ここ)に何ぞ極まらん 夕方の宮殿では珠のすだれが下ろされ、流れていく蛍が飛んではまた休んでいる。長…

己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ

『論語』学而篇 子貢問ひて曰く、「一言にして以て終身 之(これ)を行ふべき者有るか」と。子曰く、「其れ恕(じょ)か。己の欲せざる所、人に施すこと勿(な)かれ」と。 (子貢が尋ねて言った。「一言で一生行っていくべきことがありましょうか。」孔子は言われ…

相送―何遜

相送 何遜(かそん)客心已百念 客心 已(すで)に百念孤遊重千里 孤遊 千里を重ぬ江暗雨欲来 江 暗くして 雨 来たらんと欲し浪白風初起 浪 白くして 風 初めて起こる 異郷にある身の心にはさまざまな思いが湧き起こってくる。私はただ一人これからまた千里の旅…

南史演義 巻3-8

一方、劉牢之(りゅうろうし)は兵を退いて以降、人心を大いに失い、威望も激しくそこなわれ、心中非常に悔いていた。そしてある日、劉牢之を会稽内史に任ずる詔が下ると、彼は大いに懼れた。「こうなっては我が兵が奪われてしまう。禍が迫ってきた!」この時…

南史演義 巻3-7

この時、桓玄(かんげん)はしばしば勝利を収めていたとはいえ、やはり劉牢之(りゅうろうし)を恐れ、あえてすぐに都の門を犯そうとはしなかった。卞范之(べんはんし)が言った。「劉牢之が強兵数万を擁しながら、溧州(りつしゅう)に軍をとどめ、徘徊して進もう…

南史演義 巻3-6

ところで、庾楷(ゆかい)はもともと反覆の徒であり、先ごろ桓玄(かんげん)に味方したものの、ただ南昌(なんしょう)太守を与えられただけであったため、鬱鬱(うつうつ)として楽しまなかった。そして桓玄によって夏口(かこう)に移されたため、さらに不満を抱き…

南史演義 巻3-5

ところで楊広(ようこう)は襄陽(じょうよう)に逃げかえり、泣きながら瓊玉(けいぎょく)に言った。「弟は戦死し、我が軍は全滅しました。あなたの夫の一族はことごとく殺害され、襄陽は孤城となっています。恐らくはこれを守ることは難しいと思われます。どう…

一片の氷心 玉壺にあり

芙蓉楼送辛漸 芙蓉楼にて辛漸(しんぜん)を送る 王昌齢寒雨連江夜入呉 寒雨 江に連なりて 夜 呉に入る平明送客楚山孤 平明 客を送れば 楚山 孤なり洛陽親友如相問 洛陽の親友 如(も)し相ひ問はば一片氷心在玉壺 一片の氷心 玉壺(ぎょくこ)に在り 冷たい雨が長…

南史演義 巻3-4

しかし楊佺期(ようせんき)が江陵に至ると、殷仲堪(いんちゅうかん)のもとには援軍をねぎらう酒食などもなく、ただ麦を軍に支給しているだけであった。楊佺期は大いに怒って言った。「殷侯はわしを誤らせた。今ここで敗れるだろう!」そのまま仲堪の方を見ず…

南史演義 巻3-3

この時、殷道護(いんどうご)、桓昇(かんしょう)の二子は将台の上に座り、瓊玉(けいぎょく)の絶世なる容貌と優れた武芸に魂も奪われ、すぐにでも華燭の典を結びたいと切望していた。やがて瓊玉は台に上がり席についたが、風流なるその姿にますます心を動かさ…

父母の年は

『論語』里仁篇 子曰く、「父母の年は、知らざるべからざるなり。一には則ち以て喜び、一には則ち以て懼(おそ)る」と。(孔子は言われた、「父母の年は、知っておくべきだ。一つにはその長寿を喜び、一つには年老いたことを心配するのだ」と。 若い時には全…

南史演義 巻3-2

ある日、殷道護(いんどうご)と桓昇(かんしょう)はともに襄陽(じょうよう)にやってきて、それぞれ宿舎に入った。二人はもともと知り合いであり、翌日は馬を並べて軍府を訪ねた。殷は桓に言った。「我らと君らとはともに中原に鹿を逐っているが、その鹿は誰の…

南史演義 巻3-1

第三巻 楊佺期 武を演じて婚を招き 桓敬道 師を興して境を拓く 桓修(かんしゅう)は司馬元顕(しばげんけん)に計を進めて言った。「西府の殷仲堪(いんちゅうかん)、桓玄(かんげん)らは、もっぱら北府の王恭(おうきょう)を頼みとしておりましたが、王恭が破滅し…

関羽と曹操

以前、関羽と曹操の関係について少し述べましたが、『三国志演義』においてこの二人の関係(因縁と言って良いかもしれません)は一つの重要な要素です。 関羽と曹操が初めて会ったのは、第5回です。 漢末の混乱に乗じて権力を握り、都で横暴の限りをつくす董…

黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る

黄鶴楼送孟浩然之広陵 黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ゆ)くを送る 李白故人西辞黄鶴楼 故人 西のかた黄鶴楼を辞し煙花三月下揚州 煙花 三月 揚州に下る孤帆遠影碧空尽 孤帆(こはん)の遠影 碧空に尽き唯見長江天際流 唯だ見る 長江の天際に流るるを 親しい友は…

政は正なり

今から2500年ほど前、中国は春秋・戦国時代という戦乱のただ中にありました。そのような社会情勢にあって、生きるとは何か、国家とはどうあるべきか、といったことなどを考えるさまざまな学問が起こってきます。そしてその結果、中国は諸子百家の時代を迎えま…

鸛鵲楼に登る

登鸛鵲楼 鸛鵲楼(かんじゃくろう)に登る 王之渙(おうしかん) 白日依山尽 白日 山に依(よ)りて尽き黄河入海流 黄河 海に入りて流る 欲窮千里目 千里の目を窮めんと欲し更上一層楼 更に上る 一層の楼 白日は西の山際にかかって隠れようとしている。黄河は遥か…

曹操の恋―吉川『三国志』より

関羽と曹操について、今回は吉川英治『三国志』から見てみたいと思います。 以前述べたように、曹操は関羽を非常に高く評価し、自身の部下にしたいと願いますが、その時の曹操の思いを、吉川英治は「恋」と表現しています。 吉川英治『三国志』では「恋の曹…

南史演義 巻2ー8

己亥の日、司馬尚之(しばしょうし)は牛渚において庾楷(ゆかい)を大いに破り、庾楷は単騎で逃げ去った。尚之は勝ちに乗じて、そのまま西府の軍と横江において戦ったが、あろうことか大敗を喫してしまい、率いていた水軍は全滅してしまった。

義絶―関羽

関羽、字は雲長は、『三国志』中でも非常に人気のある人物の一人です。 劉備が旗揚げした頃から仕え、張飛とともにその護衛官のような役割を務めていました。その関係性は、『三国志』蜀書・関羽伝に「恩は兄弟の如し」とあるように、非常に親密なものであり…

南史演義 巻2ー7

話は変わって、相王司馬道子(しばどうし)の世子元顕(げんけん)は、十六歳であったが、非常に聡明で政治にも明るく、気力も盛んで鋭かった。常に朝廷が地方の諸侯の掣肘を受けていることを憂い、しばしば父に早くそれらの対策を謀るよう勧めていた。そこで道…

除夜の作

今日は大晦日です。 除夜作 高適(こうせき)旅館寒灯独不眠 旅館の寒灯 独り眠らず 客心何事転悽然 客心 何事ぞ 転(うた)た悽然故郷今夜思千里 故郷 今夜 千里を思ふ 霜鬢明朝又一年 霜鬢 明朝 又一年 旅館の寒々とした灯火の下で、独り寝つけない。旅人の心…

秋日

秋日 耿湋反照入閭巷 反照 閭巷(りょこう)に入(い)る憂来与誰語 憂ひ来たりて誰とか語らん古道無人行 古道 人 行くこと無く秋風動禾黍 秋風 禾黍(かしょ)を動かす 夕陽が小さな村里に差し込んでいる。憂いがつのってきたが、この思いを誰と語り合えばよいの…

秋風引

すっかり秋になりました。そこで秋の詩を一つ。 秋風引 劉禹錫何処秋風至 何れの処よりか秋風至り蕭蕭送雁群 蕭蕭として雁の群を送る朝来入庭樹 朝来 庭樹に入り孤客最先聞 孤客 最も先に聞く どこからともなく秋風が吹いてきて、ひゅうひゅうと音を立てて雁…

二千里外 故人の心

先日はスーパームーンでした。そこで十五夜の月を詠った詩を一つ。 八月十五日夜禁中独直対月憶元九 八月十五日夜 禁中に独り直し月に対して元九を憶ふ 白居易 銀台金闕夕沈沈 銀台 金闕 夕に沈沈たり 独宿相思在翰林 独り宿し相ひ思ひて 翰林に在り 三五夜…

槊を横たえて詩を賦す ― 詩人曹操

魏の武帝曹操は実は詩人としても傑出した人物でした。今日はその詩を紹介します。 短歌行 曹操対酒当歌 酒に対して当に歌ふべし人生幾何 人生 幾何(いくばく)ぞ譬如朝露 譬へば朝露の如く去日苦多 去る日は苦(はなは)だ多し慨当以慷 慨(がい)して当に以て慷(…

蜀相

蜀相 杜甫 丞相祠堂何処尋 丞相の祠堂 何れの処にか尋ねん 錦官城外柏森森 錦官(きんかん) 城外 柏 森森たり 映階碧草自春色 階に映ずる碧草は 自(おのずか)ら春色 隔葉黄鸝空好音 葉を隔つる黄鸝(こうり)は 空しく好音 三顧頻繁天下計 三顧 頻繁なり 天下の…

簿領の書に沈迷す

雑詩 劉楨 職事相填委 職事 相ひ填委(てんい)し 文墨紛消散 文墨 紛として消散す 馳翰未暇食 翰(ふで)を馳せて未だ食するに暇(いとま)あらず 日昃不知晏 日 昃(かたむ)くも晏(いこ)ふを知らず 沈迷簿領書 簿領(ぼりょう)の書に沈迷し 回回自昏乱…