白頭を悲しむ翁に代す

代悲白頭翁 白頭を悲しむ翁に代す 劉希夷 洛陽城東桃李花 洛陽の城東 桃李の花飛来飛去落誰家 飛び来たり飛び去りて 誰(た)が家にか落つ洛陽女児好顏色 洛陽の女児 顔色を好み坐見落花長歎息 坐(そぞ)ろに落花を見て 長く歎息す今年花落顏色改 今年 花落ちて…

独酌―白居易

独酌 白居易窓外正風雪 窓外 正に風雪擁炉開酒缸 炉を擁して 酒缸を開く何如釣船雨 何如(いかん)ぞ 釣船の雨篷底睡秋江 篷底 秋江に睡るに 窓の外はいまや吹雪。その音を聞きながら炉端で酒がめのふたを開く。この楽しさは、秋の川辺で雨音を聞きながら、釣…

江南の春

江南春 杜牧千里鶯啼緑映紅 千里 鶯 啼きて 緑 紅に映ず水村山郭酒旗風 水村 山郭 酒旗の風南朝四百八十寺 南朝 四百八十寺(しひゃくはっしんじ)多少楼台煙雨中 多少の楼台 煙雨の中(うち) 千里彼方まで鶯が鳴きしきり、緑の葉が紅の花に映えわたる。水辺の…

江雪―柳宗元

江雪 柳宗元千山鳥飛絶 千山 鳥飛ぶこと絶え万逕人蹤滅 万逕 人蹤滅す孤舟蓑笠翁 孤舟 蓑笠の翁独釣寒江雪 独り釣る 寒江の雪 連なる山々には鳥の飛ぶ姿も絶え、あらゆる小径には人の足跡も消えた。一艘の小舟に蓑笠をつけた翁が乗り、寒々とした雪の降る江…

茅屋 秋風の破る所と為る歌

茅屋為秋風所破歌 杜甫 茅屋 秋風の破る所と為る歌 八月秋高風怒号 八月 秋高くして 風 怒号し巻我屋上三重茅 我が屋上の三重の茅を巻く茅飛度江灑江郊 茅は飛びて江を度(わた)り 江 郊に灑(そそ)ぎ高者挂罥長林梢 高き者は長林の梢(こずえ)に挂罥(くゎいけ…

秋風の辞

秋風辞 漢武帝 秋風起兮白雲飛 秋風 起こりて 白雲 飛び草木黄落兮雁南帰 草木 黄落して 雁 南に帰る蘭有秀兮菊有芳 蘭に秀でたる有り 菊に芳しき有り懐佳人兮不能忘 佳人を懐(おも)ひて忘るる能はず泛楼舡兮済汾河 楼舡を泛(うか)べて 汾河(ふんが)を済(わ…

送別―王維

送別 王維下馬飲君酒 馬を下り 君に酒を飲ましむ問君何所之 君に問ふ 何の之(ゆ)く所ぞ君言不得意 君は言ふ 意を得ず帰臥南山陲 南山の陲(ほとり)に帰臥(きが)せんと但去莫復問 但だ去れ 復た問ふこと莫し白雲無尽時 白雲 尽くる時無からん 馬を下りて君に一…

一を聞いて二を知る

『論語』公冶長子 子貢に謂ひて曰く、「女(なんじ)と回と孰(いず)れか愈(まさ)れる」と。対(こた)へて曰く、「賜(し)や何ぞ敢へて回を望まん。回や一を聞いて以て十を知る。賜や一を聞いて以て二を知るのみ」と。子曰く、「如(し)かざるなり。吾と女(なんじ)…

夏昼偶作

夏昼偶作 柳宗元南州溽暑酔如酒 南州 の溽暑(じょくしょ) 酔ひて酒の如し隠几熟眠開北牖 几(き)に隠(よ)りて熟眠 北牖(ほくゆう)を開く日午独覚無余声 日午 独り覚めて 余声無し山童隔竹敲茶臼 山童 竹を隔てて 茶臼(ちゃきゅう)を敲(たた)く 南国のあまりの…

香山避暑

香山避暑 白居易 六月灘声如猛雨 六月 灘声(たんせい) 猛雨の如し 香山楼北暢師房 香山の楼北 暢師(ちょうし)の房 夜深起憑闌干立 夜深くして 起ちて闌干(らんかん)に憑りて立てば 満耳潺湲満面涼 耳に満つる潺湲(せんかん) 面に満つる涼 夏六月、岩にぶつか…

梅雨―杜甫

「梅雨」というのはもともと梅の実が熟する頃に降る雨ということで、中国でもあります。その梅雨を詠った杜甫の詩を一首。 梅雨 杜甫 南京犀浦道 南京 犀浦(さいほ)の道 四月熟黄梅 四月 黄梅 熟す 湛湛長江去 湛湛として 長江 去り 冥冥細雨来 冥冥として …

南史演義 巻4-10

桓玄は足の速い船に乗って、西のかた江陵へと敗走した。郭銓(かくせん)は陣前で劉毅(りゅうき)に降った。殷仲文(いんちゅうぶん)は、はじめ桓玄に従って逃走したが、道中で引き返し、巴陵(はりょう)で何皇后と王皇后を迎え、二皇后を奉じて都建康へ向かった…

南史演義 巻4-9

さて桓玄は尋陽(じんよう)に敗走したが、郭昶之(かくちょうし)が武器や兵力を支給したため、軍力を少し回復した。何無忌(かむき)、劉毅(りゅうき)、劉道規(りゅうどうき)の三将が追ってくるのを聞き、何澹之(かたんし)を留めて湓口(ほんこう)を守らせ、自身…

南史演義 巻4-8

壬申(じんしん)、群臣は劉裕を領揚州刺史に推挙したが、劉裕は王謐(おうひつ)の恩に感じており、この領揚州刺史をもってこれに酬いることにした。そこで劉裕を推挙して大将軍・都督揚徐袞予青冀幽并八州軍事とした。そして劉毅(りゅうき)を青州刺史とし、何…

南史演義 巻4-7

桓玄は二将の死を聞き、大いにおそれ、群臣に問うた。「わしは敗れるのか?」吏部郎の曹靖之(そうせいし)は答えて言った。「民は怨み、神は怒っております。臣はまことにそれを懼れております。」桓玄「民が怨むのはともかく、神はどうして怒っているのか?…

酒を把りて月に問ふ

把酒問月 酒を把(と)りて月に問ふ 李白青天有月来幾時 青天 月有りて来(このか)た幾時ぞ我今停杯一問之 我 今 杯を停めて一たび之に問ふ人攀明月不可得 人 明月を攀(よ)づるも得(う)べからず月行却与人相随 月行 却(かえ)って人と相ひ随ふ皎如飛鏡臨丹闕 皎…

南史演義 巻4-6

さて呉甫之(ごほし)は江乗(こうじょう)まで進軍し、そこで劉裕軍と相遇した。呉甫之の兵は劉裕軍の数倍あり、甲冑や騎馬が陣に連なり、矛や槍は日に照らされ輝いていた。劉裕の兵はそれを見てみな恐れたが、劉裕は言った。「今日の戦は、進むことはあっても…

南史演義 巻4-5

さて一方、この同じ日、孟昶(もうちょう)は青州にあり、桓宏(かんこう)に出猟するように勧め、その許可を得ていた。まだ夜が明けぬうちに門を開かせると、猟に出るはずの孟昶、劉毅(りゅうき)、劉道規(りゅうどうき)らは、壮士数十人を率い、間隙に乗じて突…

月下独酌

月下独酌 李白花間一壷酒 花間 一壺の酒独酌無相親 独り酌みて相ひ親しむ無し挙杯邀明月 杯を挙げて明月を邀(むか)へ対影成三人 影に対して三人と成る月既不解飲 月は既に飲むを解せず影徒随我身 影は徒らに我が身に随ふ暫伴月将影 暫く月と影とを伴にし行楽…

南史演義 巻4-4

何無忌は事を挙げようとした際、家人に知られることを恐れ、夜、ひそかに屏風の後に檄文を書いていた。その母劉氏は、劉牢之(りゅうろうし)の姉であり、階段の上からこの様子をうかがい、桓玄を討とうとしていると知り、大いに喜んだ。そして彼を呼んで言っ…

南史演義 巻4-3

桓修(かんしゅう)が任地に帰る際、劉裕もともに帰るべきところであったが、戦の傷が痛んで馬に乗れないと理由をつけ、何無忌(かむき)とともに同じ船で帰ることとし、ひそかに桓玄打倒の計を練った。京口に帰ると、たまたま孟昶(もうちょう)も家に還っており…

南史演義 巻4-2

元興二年(403)十二月丁丑(ていちゅう)、群臣が入朝し、帝に正殿にて手ずから禅譲の詔を書くよう求めた。帝はやむを得ず司徒王謐(おうひつ)を遣わして玉璽を奉り、楚に帝位をお譲りになった。そして帝は位を降り、江州の雍安宮に移られた。百官は楚王府にや…

南史演義 巻4-1

第四巻 京口鎮に群雄は聚義し 建康城に偽主は潜逃す さて、劉敬宣(りゅうけいせん)は山陽に拠って、兵を集めて報復を謀ろうとしていた。そこに征討軍がやって来ると聞き、慌てて諸将とともに兵馬を整えて敵を迎え撃った。しかし兵はまだ十分修練もされておら…

春風―白居易

春風 白居易春風先発苑中梅 春風 先に発(ひら)く 苑中の梅桜杏桃梨次第開 桜 杏 桃 梨 次第に開く薺花楡莢深村裏 薺花(せいか) 楡莢(ゆきょう) 深村の裏(うち)亦道春風為我来 亦(ま)た道(い)ふ 春風 我が為に来たると 春風はまず御苑の中の梅を咲かせ、その…

一枝の春

三月になり春めいてきました。 そこでこのような詩を。 贈范曄 范曄(はんよう)に贈る 陸凱(りくがい)折花逢駅使 花を折りて駅使に逢ふ寄与隴頭人 隴頭(ろうとう)の人に寄与せん江南無所有 江南に有る所無し聊贈一枝春 聊(いささ)か一枝(いっし)の春を贈らん …

玉階怨―李白

玉階怨 李白玉階生白露 玉階に白露生じ夜久侵羅襪 夜 久しくして 羅襪(らべつ)を侵す却下水精簾 却(かえ)つて下ろす 水精の簾(すだれ)玲瓏望秋月 玲瓏(れいろう) 秋月を望む 宮殿の玉の階(きざはし)に白露が降り、夜が更けて薄絹の靴下の中まで冷たさが染み…

玉階怨―謝朓

玉階怨 謝朓(しゃちょう)夕殿下珠簾 夕殿(せきでん) 珠簾を下ろし流蛍飛復息 流蛍 飛びて復た息ふ長夜縫羅衣 長夜 羅衣を縫ひ思君此何極 君を思ふこと此(ここ)に何ぞ極まらん 夕方の宮殿では珠のすだれが下ろされ、流れていく蛍が飛んではまた休んでいる。長…

己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ

『論語』学而篇 子貢問ひて曰く、「一言にして以て終身 之(これ)を行ふべき者有るか」と。子曰く、「其れ恕(じょ)か。己の欲せざる所、人に施すこと勿(な)かれ」と。 (子貢が尋ねて言った。「一言で一生行っていくべきことがありましょうか。」孔子は言われ…

相送―何遜

相送 何遜(かそん)客心已百念 客心 已(すで)に百念孤遊重千里 孤遊 千里を重ぬ江暗雨欲来 江 暗くして 雨 来たらんと欲し浪白風初起 浪 白くして 風 初めて起こる 異郷にある身の心にはさまざまな思いが湧き起こってくる。私はただ一人これからまた千里の旅…

南史演義 巻3-8

一方、劉牢之(りゅうろうし)は兵を退いて以降、人心を大いに失い、威望も激しくそこなわれ、心中非常に悔いていた。そしてある日、劉牢之を会稽内史に任ずる詔が下ると、彼は大いに懼れた。「こうなっては我が兵が奪われてしまう。禍が迫ってきた!」この時…