漢詩

梅雨―杜甫

「梅雨」というのはもともと梅の実が熟する頃に降る雨ということで、中国でもあります。その梅雨を詠った杜甫の詩を一首。 梅雨 杜甫 南京犀浦道 南京 犀浦(さいほ)の道 四月熟黄梅 四月 黄梅 熟す 湛湛長江去 湛湛として 長江 去り 冥冥細雨来 冥冥として …

酒を把りて月に問ふ

把酒問月 酒を把(と)りて月に問ふ 李白青天有月来幾時 青天 月有りて来(このか)た幾時ぞ我今停杯一問之 我 今 杯を停めて一たび之に問ふ人攀明月不可得 人 明月を攀(よ)づるも得(う)べからず月行却与人相随 月行 却(かえ)って人と相ひ随ふ皎如飛鏡臨丹闕 皎…

月下独酌

月下独酌 李白花間一壷酒 花間 一壺の酒独酌無相親 独り酌みて相ひ親しむ無し挙杯邀明月 杯を挙げて明月を邀(むか)へ対影成三人 影に対して三人と成る月既不解飲 月は既に飲むを解せず影徒随我身 影は徒らに我が身に随ふ暫伴月将影 暫く月と影とを伴にし行楽…

春風―白居易

春風 白居易春風先発苑中梅 春風 先に発(ひら)く 苑中の梅桜杏桃梨次第開 桜 杏 桃 梨 次第に開く薺花楡莢深村裏 薺花(せいか) 楡莢(ゆきょう) 深村の裏(うち)亦道春風為我来 亦(ま)た道(い)ふ 春風 我が為に来たると 春風はまず御苑の中の梅を咲かせ、その…

一枝の春

三月になり春めいてきました。 そこでこのような詩を。 贈范曄 范曄(はんよう)に贈る 陸凱(りくがい)折花逢駅使 花を折りて駅使に逢ふ寄与隴頭人 隴頭(ろうとう)の人に寄与せん江南無所有 江南に有る所無し聊贈一枝春 聊(いささ)か一枝(いっし)の春を贈らん …

玉階怨―李白

玉階怨 李白玉階生白露 玉階に白露生じ夜久侵羅襪 夜 久しくして 羅襪(らべつ)を侵す却下水精簾 却(かえ)つて下ろす 水精の簾(すだれ)玲瓏望秋月 玲瓏(れいろう) 秋月を望む 宮殿の玉の階(きざはし)に白露が降り、夜が更けて薄絹の靴下の中まで冷たさが染み…

玉階怨―謝朓

玉階怨 謝朓(しゃちょう)夕殿下珠簾 夕殿(せきでん) 珠簾を下ろし流蛍飛復息 流蛍 飛びて復た息ふ長夜縫羅衣 長夜 羅衣を縫ひ思君此何極 君を思ふこと此(ここ)に何ぞ極まらん 夕方の宮殿では珠のすだれが下ろされ、流れていく蛍が飛んではまた休んでいる。長…

相送―何遜

相送 何遜(かそん)客心已百念 客心 已(すで)に百念孤遊重千里 孤遊 千里を重ぬ江暗雨欲来 江 暗くして 雨 来たらんと欲し浪白風初起 浪 白くして 風 初めて起こる 異郷にある身の心にはさまざまな思いが湧き起こってくる。私はただ一人これからまた千里の旅…

一片の氷心 玉壺にあり

芙蓉楼送辛漸 芙蓉楼にて辛漸(しんぜん)を送る 王昌齢寒雨連江夜入呉 寒雨 江に連なりて 夜 呉に入る平明送客楚山孤 平明 客を送れば 楚山 孤なり洛陽親友如相問 洛陽の親友 如(も)し相ひ問はば一片氷心在玉壺 一片の氷心 玉壺(ぎょくこ)に在り 冷たい雨が長…

黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る

黄鶴楼送孟浩然之広陵 黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ゆ)くを送る 李白故人西辞黄鶴楼 故人 西のかた黄鶴楼を辞し煙花三月下揚州 煙花 三月 揚州に下る孤帆遠影碧空尽 孤帆(こはん)の遠影 碧空に尽き唯見長江天際流 唯だ見る 長江の天際に流るるを 親しい友は…

鸛鵲楼に登る

登鸛鵲楼 鸛鵲楼(かんじゃくろう)に登る 王之渙(おうしかん) 白日依山尽 白日 山に依(よ)りて尽き黄河入海流 黄河 海に入りて流る 欲窮千里目 千里の目を窮めんと欲し更上一層楼 更に上る 一層の楼 白日は西の山際にかかって隠れようとしている。黄河は遥か…

除夜の作

今日は大晦日です。 除夜作 高適(こうせき)旅館寒灯独不眠 旅館の寒灯 独り眠らず 客心何事転悽然 客心 何事ぞ 転(うた)た悽然故郷今夜思千里 故郷 今夜 千里を思ふ 霜鬢明朝又一年 霜鬢 明朝 又一年 旅館の寒々とした灯火の下で、独り寝つけない。旅人の心…

秋日

秋日 耿湋反照入閭巷 反照 閭巷(りょこう)に入(い)る憂来与誰語 憂ひ来たりて誰とか語らん古道無人行 古道 人 行くこと無く秋風動禾黍 秋風 禾黍(かしょ)を動かす 夕陽が小さな村里に差し込んでいる。憂いがつのってきたが、この思いを誰と語り合えばよいの…

秋風引

すっかり秋になりました。そこで秋の詩を一つ。 秋風引 劉禹錫何処秋風至 何れの処よりか秋風至り蕭蕭送雁群 蕭蕭として雁の群を送る朝来入庭樹 朝来 庭樹に入り孤客最先聞 孤客 最も先に聞く どこからともなく秋風が吹いてきて、ひゅうひゅうと音を立てて雁…

二千里外 故人の心

先日はスーパームーンでした。そこで十五夜の月を詠った詩を一つ。 八月十五日夜禁中独直対月憶元九 八月十五日夜 禁中に独り直し月に対して元九を憶ふ 白居易 銀台金闕夕沈沈 銀台 金闕 夕に沈沈たり 独宿相思在翰林 独り宿し相ひ思ひて 翰林に在り 三五夜…

蜀相

蜀相 杜甫 丞相祠堂何処尋 丞相の祠堂 何れの処にか尋ねん 錦官城外柏森森 錦官(きんかん) 城外 柏 森森たり 映階碧草自春色 階に映ずる碧草は 自(おのずか)ら春色 隔葉黄鸝空好音 葉を隔つる黄鸝(こうり)は 空しく好音 三顧頻繁天下計 三顧 頻繁なり 天下の…

簿領の書に沈迷す

雑詩 劉楨 職事相填委 職事 相ひ填委(てんい)し 文墨紛消散 文墨 紛として消散す 馳翰未暇食 翰(ふで)を馳せて未だ食するに暇(いとま)あらず 日昃不知晏 日 昃(かたむ)くも晏(いこ)ふを知らず 沈迷簿領書 簿領(ぼりょう)の書に沈迷し 回回自昏乱…

田園楽

すっかり暖かくなってきました。 ということで春の詩を一首。 田園楽 王維 桃紅復含宿雨 桃 紅(くれない)にして 復た宿雨を含み 柳緑更帯朝煙 柳 緑にして 更に朝煙を帯ぶ 花落家童未掃 花 落ちて 家童 未だ掃(はら)はず 鶯啼山客猶眠 鶯 啼きて 山客 猶ほ眠…

夜雪

夜雪 白居易 已訝衾枕冷 已に訝(いぶか)る 衾枕(きんちん)の冷やかなるを 復見窓戸明 復た見る 窓戸の明らかなるを 夜深知雪重 夜 深(ふ)けて 雪の重きを知る 時聞折竹声 時に聞く 折竹(せつちく)の声 なぜか布団や枕が冷たく、また窓のあたりがひときわ明る…

元日述懐

あけましておめでとうございます。 年も明けましたので、正月を詠った詩を一つ。 元日述懐 盧照隣 筮仕無中秩 筮仕(ぜいし)するも中秩無く 帰耕有外臣 帰耕して外臣有り 人歌小歳酒 人は歌ふ 小歳の酒 花舞大唐春 花は舞ふ 大唐の春 草色迷三径 草色 三径を…

秋興

秋興八首・其一 杜甫 玉露凋傷楓樹林 玉露 凋傷(ちょうしょう)す 楓樹の林 巫山巫峡気蕭森 巫山(ふざん)巫峡(ふきょう) 気 蕭森たり 江間波浪兼天湧 江間の波浪 天に兼(つら)なりて湧き 塞上風雲接地陰 塞上の風雲 地に接して陰(くも)る 叢菊両開他日涙 叢菊…

中秋の詩

すでに季節は秋、先日は中秋の名月でした。 十五夜望月 十五夜に月を望む 王建 中庭地白樹棲鴉 中庭 地 白くして 樹に鴉 棲み 冷露無声湿桂花 冷露 声無くして 桂花を湿(うるお)す 今夜月明人尽望 今夜 月明 人 尽(ことごと)く望む 不知秋思在誰家 知らず 秋…

夏晩

8月最後の日です。 朝晩は幾分か涼しくなり、夏の終わりを感じさせます。そこで晩夏の詩を一首。 夏晩 薛道衡 流火稍西傾 流火 稍(や)や西に傾き 夕影遍曽城 夕影(せきえい) 曽城に遍(あまね)し 高天澄遠色 高天 遠色澄み 秋気入蝉声 秋気 蝉声(せん…

元二の安西に使ひするを送る

送元二使安西 元二の安西に使ひするを送る 王維 渭城朝雨浥軽塵 渭城(いじょう)の朝雨 軽塵を浥(うるお)し 客舎青青柳色新 客舎青青 柳色 新たなり 勧君更尽一杯酒 君に勧む 更に尽くせ 一杯の酒 西出陽関無故人 西のかた陽関を出づれば故人無からん 渭城の…

鹿柴

鹿柴 王維 空山不見人 空山 人を見ず 但聞人語響 但だ人語の響くを聞くのみ 返景入深林 返景 深林に入り 復照青苔上 復た照らす 青苔の上 ひっそりとした山に人の姿は見えず、ただどこからか人の声が響いてくるだけ。西に傾いた夕陽の光は深い林の中に差し込…

勧酒

勧酒 酒を勧む 勧君金屈巵 君に勧む 金屈巵(きんくつし) 満酌不須辞 満酌(まんしゃく) 辞するを須(もち)ひず 花発多風雨 花発(ひら)くや 風雨多し 人生足別離 人生 別離足(た)る さあ君にこの黄金の杯を勧めよう。なみなみとついだ酒を、辞退など…

山中問答

山中問答 李白 問余何意棲碧山 余に問ふ 何の意ぞ 碧山(へきざん)に棲むと 笑而不答心自閑 笑ひて答へず 心 自(おのづか)ら閑なり 桃花流水窅然去 桃花流水 窅然(ようぜん)として去る 別有天地非人間 別に天地の人間(じんかん)に非ざる有り どのようなつもり…

桃夭

先日、「桃園の誓い」でも触れましたが、中国で春の花と言えば一つ桃がイメージされます。 桃之夭夭 桃の夭夭(ようよう)たる 灼灼其華 灼灼たる其の華 之子于帰 之(こ)の子 于(ここ)に帰(とつ)ぐ 宜其室家 其の室家に宜(よろ)しからん 桃の木は若…

楓橋夜泊

楓橋夜泊 張継(ちょうけい) 月落烏鳴霜満天 月落ち烏(からす)鳴きて 霜 天に満つ 江楓漁火対愁眠 江楓 漁火 愁眠に対す 姑蘇城外寒山寺 姑蘇(こそ)城外 寒山寺 夜半鐘声到客船 夜半の鐘声(しょうせい) 客船に到る 月が落ち烏が鳴き、霜の気は天に満…

白髪三千丈

秋浦歌十七首・其十五 李白 白髪三千丈 白髪 三千丈 縁愁似箇長 愁ひに縁(よ)りて箇(かく)の似(ごと)く長し 不知明鏡裏 知らず 明鏡の裏(うち) 何処得秋霜 何れの処よりか秋霜を得たる 我が白髪は三千丈、愁いのためにこのように長くなってしまった…

廬山の瀑布

今日は李白の「望廬山瀑布」(廬山の瀑布を望む)詩について。 望廬山瀑布 廬山の瀑布を望む 日照香炉生紫煙 日 香炉を照らして 紫煙生ず 遥看瀑布挂前川 遥かに看る 瀑布の前川に挂(か)かるを 飛流直下三千尺 飛流直下 三千尺 疑是銀河落九天 疑ふらくは…