漢詩

歩出夏門行〔観滄海〕 ― 曹操

歩出夏門行〔観滄海〕 曹操 東臨碣石 東のかた碣石(けっせき)に臨み以観滄海 以て滄海を観る水何澹澹 水は何ぞ澹澹(たんたん)たる山島竦峙 山島 竦峙(しょうじ)たり樹木叢生 樹木 叢(むら)がり生じ百草豊茂 百草 豊かに茂る秋風蕭瑟 秋風 蕭瑟として洪波湧起…

隋宮の春

隋宮の春 杜牧龍舟東下事成空 龍舟 東に下るも 事 空(くう)と成る蔓草萋萋満故宮 蔓草(まんそう) 萋萋(せいせい)として 故宮に満つ亡国亡家為顔色 国を亡(ほろ)ぼし家を亡ぼすは 顔色が為なり露桃猶自恨春風 露桃 猶ほ自ら春風を恨む 煬帝は龍舟を浮かべて東…

白頭を悲しむ翁に代す

代悲白頭翁 白頭を悲しむ翁に代す 劉希夷 洛陽城東桃李花 洛陽の城東 桃李の花飛来飛去落誰家 飛び来たり飛び去りて 誰(た)が家にか落つ洛陽女児好顏色 洛陽の女児 顔色を好み坐見落花長歎息 坐(そぞ)ろに落花を見て 長く歎息す今年花落顏色改 今年 花落ちて…

独酌―白居易

独酌 白居易窓外正風雪 窓外 正に風雪擁炉開酒缸 炉を擁して 酒缸を開く何如釣船雨 何如(いかん)ぞ 釣船の雨篷底睡秋江 篷底 秋江に睡るに 窓の外はいまや吹雪。その音を聞きながら炉端で酒がめのふたを開く。この楽しさは、秋の川辺で雨音を聞きながら、釣…

江南の春

江南春 杜牧千里鶯啼緑映紅 千里 鶯 啼きて 緑 紅に映ず水村山郭酒旗風 水村 山郭 酒旗の風南朝四百八十寺 南朝 四百八十寺(しひゃくはっしんじ)多少楼台煙雨中 多少の楼台 煙雨の中(うち) 千里彼方まで鶯が鳴きしきり、緑の葉が紅の花に映えわたる。水辺の…

江雪―柳宗元

江雪 柳宗元千山鳥飛絶 千山 鳥飛ぶこと絶え万逕人蹤滅 万逕 人蹤滅す孤舟蓑笠翁 孤舟 蓑笠の翁独釣寒江雪 独り釣る 寒江の雪 連なる山々には鳥の飛ぶ姿も絶え、あらゆる小径には人の足跡も消えた。一艘の小舟に蓑笠をつけた翁が乗り、寒々とした雪の降る江…

茅屋 秋風の破る所と為る歌

茅屋為秋風所破歌 杜甫 茅屋 秋風の破る所と為る歌 八月秋高風怒号 八月 秋高くして 風 怒号し巻我屋上三重茅 我が屋上の三重の茅を巻く茅飛度江灑江郊 茅は飛びて江を度(わた)り 江 郊に灑(そそ)ぎ高者挂罥長林梢 高き者は長林の梢(こずえ)に挂罥(くゎいけ…

秋風の辞

秋風辞 漢武帝 秋風起兮白雲飛 秋風 起こりて 白雲 飛び草木黄落兮雁南帰 草木 黄落して 雁 南に帰る蘭有秀兮菊有芳 蘭に秀でたる有り 菊に芳しき有り懐佳人兮不能忘 佳人を懐(おも)ひて忘るる能はず泛楼舡兮済汾河 楼舡を泛(うか)べて 汾河(ふんが)を済(わ…

送別―王維

送別 王維下馬飲君酒 馬を下り 君に酒を飲ましむ問君何所之 君に問ふ 何の之(ゆ)く所ぞ君言不得意 君は言ふ 意を得ず帰臥南山陲 南山の陲(ほとり)に帰臥(きが)せんと但去莫復問 但だ去れ 復た問ふこと莫し白雲無尽時 白雲 尽くる時無からん 馬を下りて君に一…

夏昼偶作

夏昼偶作 柳宗元南州溽暑酔如酒 南州 の溽暑(じょくしょ) 酔ひて酒の如し隠几熟眠開北牖 几(き)に隠(よ)りて熟眠 北牖(ほくゆう)を開く日午独覚無余声 日午 独り覚めて 余声無し山童隔竹敲茶臼 山童 竹を隔てて 茶臼(ちゃきゅう)を敲(たた)く 南国のあまりの…

香山避暑

香山避暑 白居易 六月灘声如猛雨 六月 灘声(たんせい) 猛雨の如し 香山楼北暢師房 香山の楼北 暢師(ちょうし)の房 夜深起憑闌干立 夜深くして 起ちて闌干(らんかん)に憑りて立てば 満耳潺湲満面涼 耳に満つる潺湲(せんかん) 面に満つる涼 夏六月、岩にぶつか…

梅雨―杜甫

「梅雨」というのはもともと梅の実が熟する頃に降る雨ということで、中国でもあります。その梅雨を詠った杜甫の詩を一首。 梅雨 杜甫 南京犀浦道 南京 犀浦(さいほ)の道 四月熟黄梅 四月 黄梅 熟す 湛湛長江去 湛湛として 長江 去り 冥冥細雨来 冥冥として …

酒を把りて月に問ふ

把酒問月 酒を把(と)りて月に問ふ 李白青天有月来幾時 青天 月有りて来(このか)た幾時ぞ我今停杯一問之 我 今 杯を停めて一たび之に問ふ人攀明月不可得 人 明月を攀(よ)づるも得(う)べからず月行却与人相随 月行 却(かえ)って人と相ひ随ふ皎如飛鏡臨丹闕 皎…

月下独酌

月下独酌 李白花間一壷酒 花間 一壺の酒独酌無相親 独り酌みて相ひ親しむ無し挙杯邀明月 杯を挙げて明月を邀(むか)へ対影成三人 影に対して三人と成る月既不解飲 月は既に飲むを解せず影徒随我身 影は徒らに我が身に随ふ暫伴月将影 暫く月と影とを伴にし行楽…

春風―白居易

春風 白居易春風先発苑中梅 春風 先に発(ひら)く 苑中の梅桜杏桃梨次第開 桜 杏 桃 梨 次第に開く薺花楡莢深村裏 薺花(せいか) 楡莢(ゆきょう) 深村の裏(うち)亦道春風為我来 亦(ま)た道(い)ふ 春風 我が為に来たると 春風はまず御苑の中の梅を咲かせ、その…

一枝の春

三月になり春めいてきました。 そこでこのような詩を。 贈范曄 范曄(はんよう)に贈る 陸凱(りくがい)折花逢駅使 花を折りて駅使に逢ふ寄与隴頭人 隴頭(ろうとう)の人に寄与せん江南無所有 江南に有る所無し聊贈一枝春 聊(いささ)か一枝(いっし)の春を贈らん …

玉階怨―李白

玉階怨 李白玉階生白露 玉階に白露生じ夜久侵羅襪 夜 久しくして 羅襪(らべつ)を侵す却下水精簾 却(かえ)つて下ろす 水精の簾(すだれ)玲瓏望秋月 玲瓏(れいろう) 秋月を望む 宮殿の玉の階(きざはし)に白露が降り、夜が更けて薄絹の靴下の中まで冷たさが染み…

玉階怨―謝朓

玉階怨 謝朓(しゃちょう)夕殿下珠簾 夕殿(せきでん) 珠簾を下ろし流蛍飛復息 流蛍 飛びて復た息ふ長夜縫羅衣 長夜 羅衣を縫ひ思君此何極 君を思ふこと此(ここ)に何ぞ極まらん 夕方の宮殿では珠のすだれが下ろされ、流れていく蛍が飛んではまた休んでいる。長…

相送―何遜

相送 何遜(かそん)客心已百念 客心 已(すで)に百念孤遊重千里 孤遊 千里を重ぬ江暗雨欲来 江 暗くして 雨 来たらんと欲し浪白風初起 浪 白くして 風 初めて起こる 異郷にある身の心にはさまざまな思いが湧き起こってくる。私はただ一人これからまた千里の旅…

一片の氷心 玉壺にあり

芙蓉楼送辛漸 芙蓉楼にて辛漸(しんぜん)を送る 王昌齢寒雨連江夜入呉 寒雨 江に連なりて 夜 呉に入る平明送客楚山孤 平明 客を送れば 楚山 孤なり洛陽親友如相問 洛陽の親友 如(も)し相ひ問はば一片氷心在玉壺 一片の氷心 玉壺(ぎょくこ)に在り 冷たい雨が長…

黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る

黄鶴楼送孟浩然之広陵 黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之(ゆ)くを送る 李白故人西辞黄鶴楼 故人 西のかた黄鶴楼を辞し煙花三月下揚州 煙花 三月 揚州に下る孤帆遠影碧空尽 孤帆(こはん)の遠影 碧空に尽き唯見長江天際流 唯だ見る 長江の天際に流るるを 親しい友は…

鸛鵲楼に登る

登鸛鵲楼 鸛鵲楼(かんじゃくろう)に登る 王之渙(おうしかん) 白日依山尽 白日 山に依(よ)りて尽き黄河入海流 黄河 海に入りて流る 欲窮千里目 千里の目を窮めんと欲し更上一層楼 更に上る 一層の楼 白日は西の山際にかかって隠れようとしている。黄河は遥か…

除夜の作

今日は大晦日です。 除夜作 高適(こうせき)旅館寒灯独不眠 旅館の寒灯 独り眠らず 客心何事転悽然 客心 何事ぞ 転(うた)た悽然故郷今夜思千里 故郷 今夜 千里を思ふ 霜鬢明朝又一年 霜鬢 明朝 又一年 旅館の寒々とした灯火の下で、独り寝つけない。旅人の心…

秋日

秋日 耿湋反照入閭巷 反照 閭巷(りょこう)に入(い)る憂来与誰語 憂ひ来たりて誰とか語らん古道無人行 古道 人 行くこと無く秋風動禾黍 秋風 禾黍(かしょ)を動かす 夕陽が小さな村里に差し込んでいる。憂いがつのってきたが、この思いを誰と語り合えばよいの…

秋風引

すっかり秋になりました。そこで秋の詩を一つ。 秋風引 劉禹錫何処秋風至 何れの処よりか秋風至り蕭蕭送雁群 蕭蕭として雁の群を送る朝来入庭樹 朝来 庭樹に入り孤客最先聞 孤客 最も先に聞く どこからともなく秋風が吹いてきて、ひゅうひゅうと音を立てて雁…

二千里外 故人の心

先日はスーパームーンでした。そこで十五夜の月を詠った詩を一つ。 八月十五日夜禁中独直対月憶元九 八月十五日夜 禁中に独り直し月に対して元九を憶ふ 白居易 銀台金闕夕沈沈 銀台 金闕 夕に沈沈たり 独宿相思在翰林 独り宿し相ひ思ひて 翰林に在り 三五夜…

蜀相

蜀相 杜甫 丞相祠堂何処尋 丞相の祠堂 何れの処にか尋ねん 錦官城外柏森森 錦官(きんかん) 城外 柏 森森たり 映階碧草自春色 階に映ずる碧草は 自(おのずか)ら春色 隔葉黄鸝空好音 葉を隔つる黄鸝(こうり)は 空しく好音 三顧頻繁天下計 三顧 頻繁なり 天下の…

簿領の書に沈迷す

雑詩 劉楨 職事相填委 職事 相ひ填委(てんい)し 文墨紛消散 文墨 紛として消散す 馳翰未暇食 翰(ふで)を馳せて未だ食するに暇(いとま)あらず 日昃不知晏 日 昃(かたむ)くも晏(いこ)ふを知らず 沈迷簿領書 簿領(ぼりょう)の書に沈迷し 回回自昏乱…

田園楽

すっかり暖かくなってきました。 ということで春の詩を一首。 田園楽 王維 桃紅復含宿雨 桃 紅(くれない)にして 復た宿雨を含み 柳緑更帯朝煙 柳 緑にして 更に朝煙を帯ぶ 花落家童未掃 花 落ちて 家童 未だ掃(はら)はず 鶯啼山客猶眠 鶯 啼きて 山客 猶ほ眠…

夜雪

夜雪 白居易 已訝衾枕冷 已に訝(いぶか)る 衾枕(きんちん)の冷やかなるを 復見窓戸明 復た見る 窓戸の明らかなるを 夜深知雪重 夜 深(ふ)けて 雪の重きを知る 時聞折竹声 時に聞く 折竹(せつちく)の声 なぜか布団や枕が冷たく、また窓のあたりがひときわ明る…