香山避暑
香山避暑 白居易
六月灘声如猛雨 六月 灘声(たんせい) 猛雨の如し
香山楼北暢師房 香山の楼北 暢師(ちょうし)の房
夜深起憑闌干立 夜深くして 起ちて闌干(らんかん)に憑りて立てば
満耳潺湲満面涼 耳に満つる潺湲(せんかん) 面に満つる涼
夏六月、岩にぶつかる早瀬の音は、まるで激しい雨のよう。ここは香山寺の高楼の北、文暢禅師のお部屋。夜も更けたころ、起き上がって欄干に寄りかかって立っていると、耳には清流の水音が満ちあふれ、顔には涼しさが満ちわたる。
※[六月]旧暦の六月は、新暦の六月下旬から八月上旬、盛夏にあたる。[灘声]岩にぶつかる早瀬の音。 [香山]寺の名。香山寺。 [暢師]香山寺の高僧の一人、文暢禅師(もんちょうぜんじ)をいう。 [闌干]手すり。欄干。 [潺湲]水の流れる音。
ここしばらく厳しい暑さが続いていますが、中国の詩人たちは、夏場にはしばしば山や渓谷などに涼を求め、避暑に出かけます。
この詩もまさにその避暑の詩です。山深き寺の夜、そこで聞こえる早瀬の音、顔に感じる水飛沫、見事に夏の「涼」を描き上げている詩ではないかと思います。
梅雨―杜甫
「梅雨」というのはもともと梅の実が熟する頃に降る雨ということで、中国でもあります。その梅雨を詠った杜甫の詩を一首。
梅雨 杜甫
南京犀浦道 南京 犀浦(さいほ)の道
四月熟黄梅 四月 黄梅 熟す
湛湛長江去 湛湛として 長江 去り
冥冥細雨来 冥冥として 細雨 来たる
茅茨疏易湿 茅茨 疏として湿(うるほ)ひ易く
雲霧密難開 雲霧 密として開き難し
竟日蛟龍喜 竟日 蛟龍(こうりゅう) 喜び
盤渦与岸迴 盤渦して 岸と迴(めぐ)る
南京(成都)にある犀浦県にある我が家の前の道では、四月になると梅が黄色く熟している。長江は満々と水をたたえて流れ去り、細かな雨が薄暗い中、降ってくる。茅葺きの屋根はまばらに葺いたもので雨がしみやすく、雲や霧は深く垂れこめて空はなかなか晴れない。このようなとき蛟龍などは一日中喜んで、曲がりくねる岸に沿って、渦をまいていることだろう。
※[南京]蜀の成都を指す。 [犀浦]成都にある県名。杜甫の草堂があった。 [茅茨]茅葺きの屋根。 [竟日]一日中。 [蛟龍]みずちと龍。伝説上の動物で水神でもある。 [盤渦]渦をまく。
旧暦の4月は初夏、すなわち今の6月頃にあたります。梅の実が熟するなか降り続く雨、まことにうっとうしい様子が描かれ、そしてこんな時に喜ぶのは龍くらいのものであろうと詠います。
龍は古来、風雨を呼ぶものであり、神的かつ荘厳なイメージがあります。それを雨の中で戯れるものとして描くことで、ぐっと人に近い存在になります。このような龍の描き方はあまり見られず、なかなか特徴的と言えるでしょう。
南史演義 巻4-10
桓玄は足の速い船に乗って、西のかた江陵へと敗走した。郭銓(かくせん)は陣前で劉毅(りゅうき)に降った。殷仲文(いんちゅうぶん)は、はじめ桓玄に従って逃走したが、道中で引き返し、巴陵(はりょう)で何皇后と王皇后を迎え、二皇后を奉じて都建康へ向かった。劉裕はその罪を赦して不問にした。
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